猫の潜む図書館

ふわっと読書した気になれるブログ

 引き篭もり気味のニートがストーカーになり、ついには殺人に発展。

遺棄するつもりだった死体を手元に置いておきたくて、

ど素人の医療知識でなんとか保存しようと頑張る奮闘記。

 

江戸川乱歩の作品です。

一般的にはミステリー作家として有名な気がしますが、

退廃的な作品も多く、猟奇+特殊性癖のダブルコンボを書かせれば右に出るものはいません。

 

蟲は推理物でもありますが、

その事をおまけと感じさせるような濃厚なストーリーが特徴的です。

 

 

早速ご紹介したいと思いますが

猟奇的なシーンがありますので苦手な方は回避下さい。

 

 

 

 

木愛造(まさき あいぞう)は、両親の死をきっかけに大学を中途退学し

寂れた屋敷を買い取り、お手伝いさん一人、

両親の残した財産を持って、土蔵に自室を作り社会から隠れるように暮らしていました。

 

この男、重度の人嫌いなんですが、同時にまったくの一人にはなれない。

孤独でいたいのに孤立は嫌。愛へのあこがれと嫌悪。

矛盾というか、表裏一体の思いを同時に他人に感じるみたいで、

そりゃそんな状態で社会にいたら疲れますよね…

 

こんなどうしようもない思いを抱えながらひっそりと日々を過ごしていたある日、

唯一の友人である池内光太郎から一人の女性を紹介されます。

 

舞台女優 木下芙蓉。

 

それは柾木愛造が少年時代密かに恋焦がれた初恋の相手、木下文子でした。

しかも、かつて天使のようだった少女が妖艶な美女に成長しており、

過去の聖女像と現在の誘う様な艶やかさに中てられ頭がパーンして、憧れで終った恋心があっという間に蘇ります。

 

 

憧れだった人が今は自分に微笑みかけ、話に聞き入ってくれる。

 

すっかりうぬぼれて、彼女の振る舞いを

自分を好いてくれているからだと勘違いし、舞い上がってしまいました。

 

実のところ

池内と芙蓉は恋人関係であり、芙蓉は彼氏の友人として接していただけです。

 

うすうす池内と芙蓉の関係には気づいていた柾木でしたが、舞い上がってるせいで池内より自分の方に興味が移ってきていると思い込んでしまい

勢いに任せて、芙蓉に自分の思いを伝えようと行動を起こします。

 

まぁ、当たり前ですが思い叶わず

それどころか渾身の告白を彼女に大爆笑され柾木の心は深く傷つきます。

 

 

ちょっと脱線しますが、日本文学によくある

思いを伝える為に男が女の手を強く握り、女がその気持ちを察してーー

って言葉を介さない流れ、とっても好きです。

レトロといいましょうか、日本人らしい情緒がありますよね。

私には生涯訪れなさそうなシチュエーションなので憧れます。

 

 

さて、普通の男であれば

会って3回目では性急すぎたと反省するとか

嫌な事件だったと引き下がるところですが

 

柾木は振られたショックで芙蓉の前に顔を出すことが出来なくなってしまいますが

ますます恋しい思いが募り、同時に憎悪も膨れていきました。

 

冒頭で書いた表裏一体の思いですね。

思いが相乗効果で湧き上がるので並の人間ならすぐに爆発しそうなものですが、この人は我慢強いといいますか…狂う素養があるのでしょうね。

 

憎悪や恋心がない交ぜの状態で芙蓉の芝居を観に行っては、更に拗らせていきました。

 

そうしてついに、観劇の帰りに池内と芙蓉の逢引の様子を目撃してしまいます。

嫉妬に駆られて二人を尾行し

いわゆる、お忍び旅館を突き止めます。

 

それ以来、殺人を犯すまでの約五ヶ月間

ここでの尾行・立ち聞き・覗き見をかかさず行いました。

 

ドン引きです

 

お忍び旅館という事は、

つまり友人と思い人との情交を見なければいけないという事で……

 

見たいですか?

 

私は無理。

 

 

柾木も童貞には余りに暴力的な光景を前に恐怖し、

羞恥や憤怒様々な感情でまともに立つことも困難になりました。

 

ですが

覗き見る恐怖は、一面では歓喜や陶酔を呼び起こします。

苦痛と快楽の錯綜は、柾木をのめり込ませました。

 

つまるところ、一種のトランス状態になれたって感じですかね。

ドラッグみたいです。

 

 

これで満足できればよかったんですが、

柾木は芙蓉に恋をしており、見ることしか出来ない現状にどんどん嫌気と不満を募らせていきました。

 

ついには、自分のものにならない芙蓉を身勝手な理屈で殺してしまいます。

 

 

この殺人トリックは流石は江戸川乱歩と思うような奇抜なアイデアです。

個人的に江戸川乱歩のトリックは名探偵コナン的なぶっ飛びを感じます。

 

 

芙蓉を一度完全に占有すれば、それで満足。

死体は埋めてしまおうと考えていた柾木ですが、

芙蓉の物言わぬ人形のような姿に、改めて恋をしてしまいました。

 

このまま永久に彼女といたい。

 

そう考えた瞬間、

柾木の頭の中を無数の蟲がウジャウジャと這い回ります。

 

死体となった彼女は今、

目には見えない微生物にその体を食い荒らされ着実に腐敗している。

 

一刻の猶予も無いと焦り、

焦りすぎて言動や行動が常軌を逸してきましたが

本で得た知識で、なんとか道具を買い集め防腐処置をしようと試みます。

 

が、素人が上手く出来るはずも無く、死体をいたずらに傷つけるだけでした。

 

防腐処置は無理。

かといって他によい方法も思い浮かばす、せめて腐敗を隠そうと絵の具で全身を塗りつぶします。

 

数日はそれでなんとか凌ぎましたが、

腐敗が進むとガスが溜まり体が膨張したせいで絵の具がひび割れ、見るも無残な姿と成り果てました。

 

柾木は完全に壊れてしまいました。

 

二日間食事を取らず蔵に閉じこもる主人を心配して、

お手伝いさんが警察呼び入り口が破壊されたときには、

 

芙蓉の死体に重なり、

執念深くわき腹の肉に指を突き立てながら柾木は息絶えていました。

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

猟奇的なシーンなど、かなりマイルドにしておりますし

柾木の心情など、書きたくてたまらなかった名台詞なども省いておりますので

大丈夫って方は原作を読まれることを強くおススメいたします。

 

前半部分は柾木愛造が幼少期からどういった人生を歩んだのか、自分と他人の違いに悩んだり、孤独を常に抱えていたり、とても文学的で太宰治人間失格のようですよ。

 

よくよく考えれば、腐敗ってそんなに早いか?

 

とか突っ込みどころのようなものはあるんですが、

江戸川乱歩の素晴らしさは、臨場感とよくわからない説得力だと思っています。

 

文章を読んでいただいたら分かると思うのですが

実際に見て書いたのこれ??と思うくらい風景描写や空気感がリアルです。

 

そして勢いがある。

 

後から考えれば、ないないって思うんですけど読んでる時はゾクゾクします。

 

私が、

文学って難しいのばかりかと思ってたけどすっごい面白いな!

 

と思うきっかけになったのが江戸川乱歩の作品でした。

 

時代が違いますから難しい言い回しや、かた苦しさはありますが

江戸川乱歩は今で言うところのラノベに近い作風で、表現もストレートだし読書慣れしてない方にこそおすすめですよ。

 

 

 

このブログは、読書が苦手な方にもストーリーを伝えて興味をもってもらいたい。

あれ?このブログ読めるなら、原作も読めるんじゃ…と素敵な作品に出会えるきっかけになれればと思っております。

 

自分が伝えやすいようにストーリーをいじったりしておりますので、読み比べて

改変しすぎ!自分はこう思った。など感想いただければ嬉しいです。

 

 

参考図書

江戸川乱歩 『陰獣 江戸川乱歩ベストコレクション④』 角川ホラー文庫