猫の潜む図書館

ふわっと読書した気になれるブログ

人間椅子

ハァハァ…奥さん…私椅子職人なんですけど…ハァハァ

椅子に入って……ハァハァ…ハァハァ

 

前回に引き続き、江戸川乱歩の作品です。

一度聞いたら忘れられなくなるこのタイトル…

江戸川乱歩の作品名は秀逸だと思います。

 

蟲は猟奇に寄った変態の犯行でしたが

人間椅子は変態による変態の犯行です。

 

今更のような気もしますが、

私の好きな本の傾向は怪奇・幻想・耽美主義です。

 

紹介する作品は殆どが↑になりますので

これらが苦手な方は、よくよくご注意下さい。

読めそうなら読んで欲しいな

 

 

 

しい閨秀作家(女性作家の事です)の佳子(よしこ)は、書斎の机の前に座り、ファンレターに目を通していました。

 

外務省書記官という旦那の肩書きも霞む程の有名作家なのですが、心優しい人で、どんな内容のものでも自分に宛てられた手紙なら、兎に角一通り読むのが日課となっていました。

 

読みやすい封書や葉書に目を通していくと、最後に一通の原稿用紙が残ります。

これ自体は珍しいことではなくて

 

『自分の作品を評価してもらおうと送ってきたのかなーでもなー退屈なのが多いしなーとりあえず表題だけみとくかぁ』

 

と、封を切って原稿を見ると表題も署名もなく「奥様」という呼びかけの言葉。

あれやっぱり手紙なのかしら?と文字に目を走らせると、薄気味悪さと好奇心でその文章から目が離せなくなりました。

 

ここから、送られてきた原稿用紙の内容に変わります。

長いので思いっきり端折って書きますが、もう鳥肌立つほど気持ち悪いから是非原作を見ていただきたい。

 

奥様、

突然このような手紙を送りつけてすいません。

こんなことを言うと、かなりびっくりしてしまうと思うのですが、私の犯した世にも不思議な罪悪を聞いていただきたいのです。

 

私は数ヶ月間、悪魔のような生活を続けてまいりました。

誰にも悟られることのないまま、永久に過ごしていこうと思っておりましたが、

近頃どうにも、この因果な身の上を懺悔しないではいられなくなりました。

どうか、手紙を最後までお読み下さいませ。

 

そうすれば、私が何故そのような気持ちになったのか、

何故奥様に罪を告白をしなければならないのか分かります。

 

私は生まれつき、世にも醜い容貌です。

ですが身分不相応にも、甘美な夢に身を焦がしておりました。

裕福な生まれであれば、芸術の才があればと嘆きながら

家具職人の子として、その日を生きる為、椅子を専門に作りつづけました。

 

私の職人としての腕はなかなかのもので、高貴な方が座る贅沢な作りの注文を受けていたのですが、完成した椅子の座り具合を試しながら、

 

この椅子を注文なさるようなお邸なのだから、有名な絵画を飾り宝石のようなシャンデリアが吊り下がっているのだろう。床には絨毯、椅子の前にあるテーブルには鮮やかな西洋草花が…

 

などと妄想し、まるでその立派な部屋の主となったような気がして、ほんの一瞬ですが形容の出来ない愉快を感じておりました。

 

なおも私の妄想はとめどなく増長していき、

貧乏で、醜い、私が、気高い貴公子となって自分の作った椅子に腰掛け、その傍らではいつも夢に出てくる美しい私の恋人が微笑んで、ついには手を取り合い、恋を囁きあうこともありました。

 

そんな夢に浸っていると、決まって邪魔が入り現実に引き戻されました。

そうして夢の貴公子とは似ても似つかない自分と、夢の名残のように椅子がぽつりと残される。やがて私を置いてまったく違う世界に椅子だけ運び去られてしまう。

 

一つ一つ椅子を仕上げる度に、現実の味気なさを感じ

いっそ死んだほうがましだと真面目に思うようになりました。

 

しかし、死んでしまうくらいなら、

それ程の決意が出来るなら、もっと他に方法はないものだろうか。たとえば…

 そうして、私の考えは恐ろしいほうへ向いていくのでありました。

 

丁度その頃、私はかつて手がけたことの無い、大きな革張りの肘掛け椅子の製作を頼まれておりました。

それは素晴らしい出来栄えとなり、うっとりとしながらいつもの妄想に浸っていると、悪魔の囁きというものはああした事を指すのではありますまいか。

ある恐ろしい考えが浮かんで参りました。

 

そして私はまあ、なんという気違いでございましょう。

その奇怪極まる妄想を、実際に行ってみようと思い立ったのです。

 

椅子の細工はお手のものですから、

人間が隠れられる空洞を作り、空気口や水と食料を置く小さな棚、その他様々な考案をめぐらせ、食料さえあれば二三日入りつづけていても不便を感じないようにしつらえました。

いわば、その椅子が人間一人の部屋になった訳でございます。

 

私はシャツ一枚になると椅子の中に、すっぽりともぐりこみました。

間もなく商会が肘掛け椅子を受け取りにやってきて、私の内弟子が何も知らないで応対します。

別段あやしまれることなく荷車で運び出されると、ホテルの一室に据えられました。

 

もうとっくにお気づきでございましょう。

私のこの奇妙な行いの第一の目的は、隙を見て椅子から抜け出し盗みを働くことでありました。椅子の中に人間が隠れていようなど誰が想像できましょう。

自由自在に部屋から部屋を荒らし回って、人が騒ぎ始めればまた椅子の中で息を潜めて、彼らの間抜けな捜索を見物していればよいのです。

 

さて、この私の突飛な計画は見事に成功いたしました。

でも私は今、その事を詳しくお話している暇はありません。

私はそこで、盗みなどより何十倍も私を喜ばせた奇妙な快楽を告白することが、実はこの手紙の本当の目的なのでございます。

 

私は椅子の中の、身動きも取れない真っ暗な世界に怪しい魅力を感じました。

そこでは容貌など無意味であり、肉体の感触と声音と匂いがあるばかりでございます。

奥様、どうか気を悪くしないで下さいまし。

私はそこで、一人の女性の肉体に激しい愛着を覚えたのでございます。

 

椅子の中の恋

 それがまあ、どんなに不思議な陶酔的な魅力を持つか、実際に入ってみた者でなくては分るものではありません。

決してこの世のものではありません。悪魔の愛欲ではないでしょうか。

 

始めの予定では、盗みの目的を果たしさえすれば、すぐにもホテルを逃げ出すつもりでいたのですが、世にも奇怪な喜びに夢中になった私は、逃げ出すどころか、椅子の中を永住の住処にしたのでございます。

それにしても、数ヶ月という長い月日を、見つかることなく椅子の中で暮らしていたというのは、我ながら実に驚くべきことでした。

 

私の奇妙な恋は絶えず出入りするホテルで、時と共に相手が変わっていくのを、どうすることもできませんでした。

そして、その数々の不思議な恋人の記憶は、体の格好によって私の心に刻み付けられているのでございます。

あるものはすらりと引き締まった肉体を持ち、あるものは脂肪と弾力に富み、あるものはギリシャ彫刻のようなガッシリと力強く円満に発達した肉体をもっておりました。

そのほかにも色々な経験を致しましたが、長くなりますのでお話を進めましょう。

 

さて、私がホテルへ参りましてから、何ヶ月かの後、

ホテルの経営者が変わり、椅子は競売に出されることになりました。

盗みためた金が相当な額になっていたので普通に暮らすこともできましたが、もう少し椅子の中の生活を続けてみることに致しました。

 

そうして、私の椅子は立派な邸に住む官吏に買い取られました。

洋館の広い書斎に置かれ、私にとって非常に満足だったのは、その書斎は主人よりも、若く美しい夫人が使用されるものだったのでございます。

それ以来、一ヶ月の間、私は絶えず夫人と共におりました。

食事と就寝時間を除いては、夫人のしなやかな身体は、いつも私の上にありました。

夫人は書斎につめきって、ある著作に没頭していられたからでございます。

 

私がどんなに彼女を愛したか、

それはここにグダグダと申し上げるまでもありますまい。

 

私は本当の恋を感じました。

ホテルでの経験など、決して恋と名づくべきものではございません。

その証拠には、これまで一度もそんなことは感じなかったのに、どうにか私の存在を知らせようと苦心したのでも明らかでしょう。

 

私は出来るならば、夫人にも椅子の中の私を意識して欲しかったのです。

そして虫のいい話ですが、私を愛して貰いたく思ったのでございます。しかしあからさまに伝えれば、彼女は驚きの余り、主人や召使達に告げて、私は罪名を着て刑罰を受けねばなりません。

 

そこで私は夫人に、私の椅子を居心地よく感じさせ愛着を起こさせようと努めました。

彼女が私の椅子に生命を、物ではなく生き物として椅子に愛着を覚えてくれたら、

それだけで私は十分満足なのでございます。

 

私は彼女の身体を出来るだけ優しく受けるように心がけ、気づかれない程度に身体を揺すり、身体の位置をずらして休ませたり、ゆりかごの役目を勤めたりいたしました。

その心遣いが報いられたのか、近頃では夫人は、なんとなく私の椅子を愛しているように思われます。彼女は愛情をもって身を沈めてきます。

私の膝の上で身体を動かす様子までが、さも好ましいといったように見えるのです。

 

ああ、奥様、ついに私は身の程もわきまえぬ大それた願いを抱くようになったのでございます。

たった一目、私の恋人を見て、そして言葉を交わすことが出来たのなら、そのまま死んでもいいとまで、私は思いつめたのでございます。

 

奥様、あなたは無論、とっくにお悟りでございましょう。

その私の恋人と申しますのは、余りの失礼お許しくださいませ。

 

実はあなたでございます。

 

私は昨夜、この手紙を書くためにお邸を抜け出しました。

そして今、あなたがこの手紙をお読みなさる時、私は心配のために青い顔をしてお邸のまわりをうろつき回っております。

 

もし、この世にも不躾なお願いをお聞き届けくださいますなら、どうか書斎の窓の撫子の鉢植えにあなたのハンカチをおかけ下さいまし。

それを合図に、私は一人の訪問者としてお邸の玄関を訪れるでございましょう。

 

 

 佳子は半分ほど読んだところで、恐ろしい予感に真っ青になって無意識に立ち上がりました。肘掛け椅子から逃げるように書斎から居間に場所を移しましたが、そこで続きを読むか破り捨てるか考えます。

しかしどうにも気がかりなので、居間で続きを読みつづけました。

 

彼女の予感はやっぱり当たっていました。

オオ、気持ち悪い

読み終わってからも身震いが止まりません。

 

あまりのことにぼんやりしてしまい、

これをどう処置すべきか、まるで見当がつきません。

椅子を調べればいいんでしょうが、そんな気味の悪いことが出来てたまるか。

ホラー映画の主人公じゃねぇんだぞ!

そこに人間はいなくても、食物や、汚物も残ってるかもしれないのです。

絶対無理。

 

「奥様、お手紙でございます」

 

ハッとして振り向くと、一人の女中が今届いたらしい封書を持って来ました。

佳子は無意識にそれを受け取って開封しようとしましたが、びっくりして思わず手紙を取り落とします。

というのも、さっきの不気味な手紙と筆跡が一緒だったのです。

開封するか、捨てるか、長い間迷いましたが、ビクビクしながらも中身を読んで行きました。

手紙はごく短いものでありましたが、彼女をもう一度ハッさせた様な、奇妙な文章が記されていました。

 

 

突然手紙を差し上げます不躾を、幾重にもお許し下さいまし。

私は日頃、先生のお作を愛読しているものでございます。別封お送り致しましたのは、私の拙い創作でございます。ご一覧の上、ご批評が頂けますれば、此の上の幸いはございません。

ある理由のために、原稿を先に投函致しましたからすでにご観覧済みと拝察致します。

いかがでございましたでしょうか。もし拙作がいくらかでも先生に感銘を与えられたとしますれば、こんなに嬉しいことはないのでございますが。

原稿には、わざと省いておきましたが、表題は『人間椅子』とつけたいと考えてございます。

では失礼をかえりみず、お願いまで。匆々。

 

 

 

 お疲れ様でした。

 

 

どうですかこの

江戸川乱歩先生渾身のラブレターは

 

物語を損なわないよう最低限に抑たつもり…ですが…

ちょっとぶった切りすぎたかな…伝わるかな…この身の毛もよだつ感じ…

と、考えて、やっぱりこの作品凄いよな。好きだわ。と現実逃避してました。

 

読書が苦手な方にストーリーを知って貰いたいとオチまで書きましたが、どうなんでしょうか。書かない方が興味をもって頂けるのか…探り探りやっていこうと思います。

 

 

 江戸川乱歩怪奇小説は推理物同様、発想が素晴らしいです。

椅子のトリック考えてて思いついたのかもしれませんが、主人公が手紙を読んでいて、読者も主人公と同じ目線で読み進める。2通目を見ても本当に?実はやっぱり椅子の中に人がいるのでは??といった不安も残して、物語としてはこれ以上ないくらい綺麗に終ります。タイトルを最後に持ってくるところ。しびれます。

 

そして、卑屈な男を書くのが上手い。

作者は幼少時代に引っ込み思案で壁を作るようなタイプだったらしいのですが、

 おそらくそんな幼い頃の自分や、他人を好ましく思えないでいる心情を織り交ぜて書かれているので、変な言い方ですがイキイキとしています。

 

江戸川乱歩の初期作品は《本格探偵小説》と呼ばれており本人はそういった本格ミステリーを書いていきたいと思っていましたが、読者からの支持は《変格もの》と呼ばれる怪奇・幻想小説でした。

私の好きなやつです。なんか…ごめんなさい。

失礼な話ですが、ミステリーよりそっちの方に才能が振り切れていたといいましょうか

それだけ江戸川乱歩の書く幻想は、人を惹きつける魅力があるんです…よ

 

自分の書きたいものと、世間からの評価に苦しみ、自己嫌悪から休筆をすることもしばしばありました。

なかなかネガティブな性格をされており、人気作家なのに(それゆえなのか)

『生きるとは妥協することである』

『たとえどんなにすばらしいものでも二度とこの世に生まれ替わって来るのはごめんです』

などの名言を残しておられます。

 

 

 

参考図書

江戸川乱歩 『人間椅子』 青空文庫

 引き篭もり気味のニートがストーカーになり、ついには殺人に発展。

遺棄するつもりだった死体を手元に置いておきたくて、

ど素人の医療知識でなんとか保存しようと頑張る奮闘記。

 

江戸川乱歩の作品です。

一般的にはミステリー作家として有名な気がしますが、

退廃的な作品も多く、猟奇+特殊性癖のダブルコンボを書かせれば右に出るものはいません。

 

蟲は推理物でもありますが、

その事をおまけと感じさせるような濃厚なストーリーが特徴的です。

 

 

早速ご紹介したいと思いますが

猟奇的なシーンがありますので苦手な方は回避下さい。

 

 

 

 

木愛造(まさき あいぞう)は、両親の死をきっかけに大学を中途退学し

寂れた屋敷を買い取り、お手伝いさん一人、

両親の残した財産を持って、土蔵に自室を作り社会から隠れるように暮らしていました。

 

この男、重度の人嫌いなんですが、同時にまったくの一人にはなれない。

孤独でいたいのに孤立は嫌。愛へのあこがれと嫌悪。

矛盾というか、表裏一体の思いを同時に他人に感じるみたいで、

そりゃそんな状態で社会にいたら疲れますよね…

 

こんなどうしようもない思いを抱えながらひっそりと日々を過ごしていたある日、

唯一の友人である池内光太郎から一人の女性を紹介されます。

 

舞台女優 木下芙蓉。

 

それは柾木愛造が少年時代密かに恋焦がれた初恋の相手、木下文子でした。

しかも、かつて天使のようだった少女が妖艶な美女に成長しており、

過去の聖女像と現在の誘う様な艶やかさに中てられ頭がパーンして、憧れで終った恋心があっという間に蘇ります。

 

 

憧れだった人が今は自分に微笑みかけ、話に聞き入ってくれる。

 

すっかりうぬぼれて、彼女の振る舞いを

自分を好いてくれているからだと勘違いし、舞い上がってしまいました。

 

実のところ

池内と芙蓉は恋人関係であり、芙蓉は彼氏の友人として接していただけです。

 

うすうす池内と芙蓉の関係には気づいていた柾木でしたが、舞い上がってるせいで池内より自分の方に興味が移ってきていると思い込んでしまい

勢いに任せて、芙蓉に自分の思いを伝えようと行動を起こします。

 

まぁ、当たり前ですが思い叶わず

それどころか渾身の告白を彼女に大爆笑され柾木の心は深く傷つきます。

 

 

ちょっと脱線しますが、日本文学によくある

思いを伝える為に男が女の手を強く握り、女がその気持ちを察してーー

って言葉を介さない流れ、とっても好きです。

レトロといいましょうか、日本人らしい情緒がありますよね。

私には生涯訪れなさそうなシチュエーションなので憧れます。

 

 

さて、普通の男であれば

会って3回目では性急すぎたと反省するとか

嫌な事件だったと引き下がるところですが

 

柾木は振られたショックで芙蓉の前に顔を出すことが出来なくなってしまいますが

ますます恋しい思いが募り、同時に憎悪も膨れていきました。

 

冒頭で書いた表裏一体の思いですね。

思いが相乗効果で湧き上がるので並の人間ならすぐに爆発しそうなものですが、この人は我慢強いといいますか…狂う素養があるのでしょうね。

 

憎悪や恋心がない交ぜの状態で芙蓉の芝居を観に行っては、更に拗らせていきました。

 

そうしてついに、観劇の帰りに池内と芙蓉の逢引の様子を目撃してしまいます。

嫉妬に駆られて二人を尾行し

いわゆる、お忍び旅館を突き止めます。

 

それ以来、殺人を犯すまでの約五ヶ月間

ここでの尾行・立ち聞き・覗き見をかかさず行いました。

 

ドン引きです

 

お忍び旅館という事は、

つまり友人と思い人との情交を見なければいけないという事で……

 

見たいですか?

 

私は無理。

 

 

柾木も童貞には余りに暴力的な光景を前に恐怖し、

羞恥や憤怒様々な感情でまともに立つことも困難になりました。

 

ですが

覗き見る恐怖は、一面では歓喜や陶酔を呼び起こします。

苦痛と快楽の錯綜は、柾木をのめり込ませました。

 

つまるところ、一種のトランス状態になれたって感じですかね。

ドラッグみたいです。

 

 

これで満足できればよかったんですが、

柾木は芙蓉に恋をしており、見ることしか出来ない現状にどんどん嫌気と不満を募らせていきました。

 

ついには、自分のものにならない芙蓉を身勝手な理屈で殺してしまいます。

 

 

この殺人トリックは流石は江戸川乱歩と思うような奇抜なアイデアです。

個人的に江戸川乱歩のトリックは名探偵コナン的なぶっ飛びを感じます。

 

 

芙蓉を一度完全に占有すれば、それで満足。

死体は埋めてしまおうと考えていた柾木ですが、

芙蓉の物言わぬ人形のような姿に、改めて恋をしてしまいました。

 

このまま永久に彼女といたい。

 

そう考えた瞬間、

柾木の頭の中を無数の蟲がウジャウジャと這い回ります。

 

死体となった彼女は今、

目には見えない微生物にその体を食い荒らされ着実に腐敗している。

 

一刻の猶予も無いと焦り、

焦りすぎて言動や行動が常軌を逸してきましたが

本で得た知識で、なんとか道具を買い集め防腐処置をしようと試みます。

 

が、素人が上手く出来るはずも無く、死体をいたずらに傷つけるだけでした。

 

防腐処置は無理。

かといって他によい方法も思い浮かばす、せめて腐敗を隠そうと絵の具で全身を塗りつぶします。

 

数日はそれでなんとか凌ぎましたが、

腐敗が進むとガスが溜まり体が膨張したせいで絵の具がひび割れ、見るも無残な姿と成り果てました。

 

柾木は完全に壊れてしまいました。

 

二日間食事を取らず蔵に閉じこもる主人を心配して、

お手伝いさんが警察呼び入り口が破壊されたときには、

 

芙蓉の死体に重なり、

執念深くわき腹の肉に指を突き立てながら柾木は息絶えていました。

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

猟奇的なシーンなど、かなりマイルドにしておりますし

柾木の心情など、書きたくてたまらなかった名台詞なども省いておりますので

大丈夫って方は原作を読まれることを強くおススメいたします。

 

前半部分は柾木愛造が幼少期からどういった人生を歩んだのか、自分と他人の違いに悩んだり、孤独を常に抱えていたり、とても文学的で太宰治人間失格のようですよ。

 

よくよく考えれば、腐敗ってそんなに早いか?

 

とか突っ込みどころのようなものはあるんですが、

江戸川乱歩の素晴らしさは、臨場感とよくわからない説得力だと思っています。

 

文章を読んでいただいたら分かると思うのですが

実際に見て書いたのこれ??と思うくらい風景描写や空気感がリアルです。

 

そして勢いがある。

 

後から考えれば、ないないって思うんですけど読んでる時はゾクゾクします。

 

私が、

文学って難しいのばかりかと思ってたけどすっごい面白いな!

 

と思うきっかけになったのが江戸川乱歩の作品でした。

 

時代が違いますから難しい言い回しや、かた苦しさはありますが

江戸川乱歩は今で言うところのラノベに近い作風で、表現もストレートだし読書慣れしてない方にこそおすすめですよ。

 

 

 

このブログは、読書が苦手な方にもストーリーを伝えて興味をもってもらいたい。

あれ?このブログ読めるなら、原作も読めるんじゃ…と素敵な作品に出会えるきっかけになれればと思っております。

 

自分が伝えやすいようにストーリーをいじったりしておりますので、読み比べて

改変しすぎ!自分はこう思った。など感想いただければ嬉しいです。

 

 

参考図書

江戸川乱歩 『陰獣 江戸川乱歩ベストコレクション④』 角川ホラー文庫

羅生門

平安時代リストラにあった男が、飢え死ぬか強盗になろうか悩んでいたら

羅生門で非合法かつら職人と会い、悪人相手なら強盗してもいいよねって追い剥ぎしました。以後行方不明。

 

出落ちすいません。

 

羅生門と聞けば、芥川龍之介?というくらい

芥川龍之介羅生門は有名な文学作品ですよね。

 

今昔物語を基に、人間のエゴイズムを描いた作品で

教科書にも載っておりますし「なつかしい」と思われる方も多いと思います。

 

今昔物語では根っからの悪党だった主人公を、

物語に深みを持たすため最初は善人にし、婆さんとの出会いで転がるように外道に堕ちていく様を描いた事で

 

人間の善悪は、生きる為であれば簡単にひっくり返る。

 

そういった人として後ろ暗い部分を

 

考えさせられるというより、

考えてもらおうと細部まで拘り抜いて作られているところが個人的に大変素晴らしいと思っております。

 

最初にこれでもかっていうくらい布石を転がしておいて、中盤で溜めて溜めて、終盤で叩き落す。

悪いやつじゃないんです。言い訳はいくらでもできるんです。同情できますよね。

って幻聴が聞こえてくるw

 

でも認めてしまうと同類になってしまうから、間違っている、自分はこいつとは違うって読者は証明しなくてはならなくなる。

この感情のゆさぶりや誘導が芥川龍之介は本当に上手いと思います。

 

最後も、その後悪人として生きていきましたーー

のように断言せず、《下人の行方は、誰も知らない》と

余韻を残して終わらせることで、読者にこの先の顛末を委ねるところも説教臭くなくて好きです。

 

…文豪に対し、偉そうに上からすいません。

しかし芥川龍之介は人間というものを知り尽くしていて、そのまま書くと

 

身も蓋もない、胸糞悪い二度と読まない!

 

といった重い内容でも、

テーマを薄めたり誤魔化したりせず、かといって不快にばかりさせない絶妙なバランスで物語としてまとめてしまう。

 

正に教科書といいましょうか、とにかく読んで間違いのない作家です。

 

小話ですが、芥川龍之介夏目漱石の門下生で生涯「先生」と慕っていました。

夏目漱石について記した文章も残っており、葬儀記には

葬儀場の受付をした事や、感情が抑えきれず号泣している様子が書かれています。

 

また、太宰治芥川龍之介が大好きで、

若い頃使っていたノートに《芥川龍之介》と何度も書き綴ってみたり、写真のポーズが芥川リスペクトだったり、髪型寄せてみたり、

芥川賞が欲しすぎて受賞者だろうが選考委員だろうが大御所だろうが、選ばれなかった悔しさから罵倒しております(なお、落選し続けました)

 

(たとえ芥川が認めても)芥川をわかっていないお前なんか、俺は認めねぇ。

 

生活に困窮し賞金目当てで必死だったという話もありますが、それだけなら↑みたいな言葉残さない。絶対芥川賞だからだぞ!

 

 

と、脱線してしまいました。

 

芥川龍之介羅生門は有名ですが、

今昔物語をはじめ《羅城門》には数々の逸話がありますが(羅生門は後世の当て字で、本来は羅城門だったそうな)今回は楠山正雄の羅生門を少しご紹介したいと思います。

 

 

、京都の大江山酒天童子という鬼がおり

散々悪さを重ね、源頼光とその家来、頼光四天王によって討伐されました。

この物語は大江山酒天童子討伐後から始まります。

 

ある雨のふる夜、

この頼光四天王の面々が酒を酌交わしておりました。

最近、羅生門に現れるという鬼の噂について話していましたが

 

「鬼は大江山で残らず退治したやん?ないないガセやって」

 

と、最年少の渡辺綱がまったく信じないので

 

じゃあお前ちょっと行って来いよ。

 

まるで肝試しだといわんばかりに羅生門へと送り出された綱。

証拠として高札(渡辺綱が来たよって書かれた札)を立てる約束をしました。

 

本人も怖いもの知らずで

雨が降って雰囲気最悪の羅生門に着いても臆さず、誰もいないことをしっかり確認してから高札を門前に立てました。

 

やっぱなんもないやん

 

とかぶつぶつ言いながら、

帰ろうと馬を走らせていたら、いきなり後ろから襟首をひっつかまれます。

 

「出たな!お前が羅生門の鬼か」

 

「うん!愛宕山茨木童子だ」

 

 

名乗るやいなや Fly high 飛びたて と聴こえてきそうなくらい

綱の襟首をもったまま鬼が跳躍しますが

冷静に刀を抜いて、鬼の腕を切り払いました。

 

鬼が唸り声を上げると、綱は羅生門の屋根の上に落とされます。

すっごい飛びましたね。ドラゴンボールみたい。

追いかける間もなく暗雲の中に消える鬼

 

「その腕、七日間君に預けるぞ」

 

と捨て台詞を残します。

 

預けるって事は、また取りに来るということですよね。

何でそんな面倒な約束とりつけたのか?

 

私的解釈ですが↓

この茨木童子の腕を切り落とすとは大した腕前だ。

証拠として腕を預けるから、持ち帰って存分に己が武勇を誇るがいい。

でも、自慢した後は返してね。色々不便だし。

みたいな感じだと思っています。

 

胴体から切り離されても、未だに襟首を掴んで離さない鬼の腕を綱は持ち帰りました。

禍々しい腕をみた残りの四天王の面々は綱の武勇を褒め称えましたが

驕らず七日後に腕を取り返しにくる鬼への対策を考えます。

 

自分の屋敷に「ものいみ」の張り紙をし、腕は丈夫な箱にしまい込み、

お経を読みながら見張りました。

 

その後、約束通り七日目の夜に鬼がなんやかんやして綱を騙して腕を取り返し

屋根を突き破って 光る雲を突き抜け Fly Away! します。

 

綱は悔しがりましたが、羅生門の鬼の噂はなくなりました。

 

 

 

最後ばっさり省略しましたが、鬼が乳母に化けて屋敷に上がりこみ

綱の良心をくすぐって上手いこと自分の前に腕を差し出させております。

 

この物語は、謡曲の《羅生門》と《茨木》を読み物として

わかりやすくまとめたものです。

羅生門の鬼が有名な茨木童子になっていますが、

これは基になった謡曲の影響で本来は別の鬼だったようです。

 

謡曲の《羅生門》は平家物語の一条戻橋のエピソードを羅生門に変えて創作されており

その時に戦ったのが茨木童子だったから、羅生門の鬼も茨木童子となったそうな。

 

個人的には『まんが日本昔話 羅生門の鬼』が

鬼が娘に化けたり老女に化けたりしていて、それにいちいち騙される綱が可愛くて好きです。

 

 

 

参考図書

芥川龍之介羅生門』 青空文庫

楠山正雄 『羅生門』 青空文庫

羅生門の鬼 Wikipedia 等々