羅生門
ー平安時代。リストラにあった男が、飢え死ぬか強盗になろうか悩んでいたら
羅生門で非合法かつら職人と会い、悪人相手なら強盗してもいいよねって追い剥ぎしました。以後行方不明。
出落ちすいません。
今昔物語を基に、人間のエゴイズムを描いた作品で
教科書にも載っておりますし「なつかしい」と思われる方も多いと思います。
今昔物語では根っからの悪党だった主人公を、
物語に深みを持たすため最初は善人にし、婆さんとの出会いで転がるように外道に堕ちていく様を描いた事で
人間の善悪は、生きる為であれば簡単にひっくり返る。
そういった人として後ろ暗い部分を
考えさせられるというより、
考えてもらおうと細部まで拘り抜いて作られているところが個人的に大変素晴らしいと思っております。
最初にこれでもかっていうくらい布石を転がしておいて、中盤で溜めて溜めて、終盤で叩き落す。
悪いやつじゃないんです。言い訳はいくらでもできるんです。同情できますよね。
って幻聴が聞こえてくるw
でも認めてしまうと同類になってしまうから、間違っている、自分はこいつとは違うって読者は証明しなくてはならなくなる。
この感情のゆさぶりや誘導が芥川龍之介は本当に上手いと思います。
最後も、その後悪人として生きていきましたーー
のように断言せず、《下人の行方は、誰も知らない》と
余韻を残して終わらせることで、読者にこの先の顛末を委ねるところも説教臭くなくて好きです。
…文豪に対し、偉そうに上からすいません。
しかし芥川龍之介は人間というものを知り尽くしていて、そのまま書くと
身も蓋もない、胸糞悪い二度と読まない!
といった重い内容でも、
テーマを薄めたり誤魔化したりせず、かといって不快にばかりさせない絶妙なバランスで物語としてまとめてしまう。
正に教科書といいましょうか、とにかく読んで間違いのない作家です。
小話ですが、芥川龍之介は夏目漱石の門下生で生涯「先生」と慕っていました。
夏目漱石について記した文章も残っており、葬儀記には
葬儀場の受付をした事や、感情が抑えきれず号泣している様子が書かれています。
若い頃使っていたノートに《芥川龍之介》と何度も書き綴ってみたり、写真のポーズが芥川リスペクトだったり、髪型寄せてみたり、
芥川賞が欲しすぎて受賞者だろうが選考委員だろうが大御所だろうが、選ばれなかった悔しさから罵倒しております(なお、落選し続けました)
(たとえ芥川が認めても)芥川をわかっていないお前なんか、俺は認めねぇ。
生活に困窮し賞金目当てで必死だったという話もありますが、それだけなら↑みたいな言葉残さない。絶対芥川賞だからだぞ!
と、脱線してしまいました。
今昔物語をはじめ《羅城門》には数々の逸話がありますが(羅生門は後世の当て字で、本来は羅城門だったそうな)今回は楠山正雄の羅生門を少しご紹介したいと思います。
散々悪さを重ね、源頼光とその家来、頼光四天王によって討伐されました。
ある雨のふる夜、
この頼光四天王の面々が酒を酌交わしておりました。
最近、羅生門に現れるという鬼の噂について話していましたが
「鬼は大江山で残らず退治したやん?ないないガセやって」
と、最年少の渡辺綱がまったく信じないので
じゃあお前ちょっと行って来いよ。
まるで肝試しだといわんばかりに羅生門へと送り出された綱。
証拠として高札(渡辺綱が来たよって書かれた札)を立てる約束をしました。
本人も怖いもの知らずで
雨が降って雰囲気最悪の羅生門に着いても臆さず、誰もいないことをしっかり確認してから高札を門前に立てました。
やっぱなんもないやん
とかぶつぶつ言いながら、
帰ろうと馬を走らせていたら、いきなり後ろから襟首をひっつかまれます。
「出たな!お前が羅生門の鬼か」
名乗るやいなや Fly high 飛びたて と聴こえてきそうなくらい
綱の襟首をもったまま鬼が跳躍しますが
冷静に刀を抜いて、鬼の腕を切り払いました。
鬼が唸り声を上げると、綱は羅生門の屋根の上に落とされます。
すっごい飛びましたね。ドラゴンボールみたい。
追いかける間もなく暗雲の中に消える鬼
「その腕、七日間君に預けるぞ」
と捨て台詞を残します。
預けるって事は、また取りに来るということですよね。
何でそんな面倒な約束とりつけたのか?
私的解釈ですが↓
この茨木童子の腕を切り落とすとは大した腕前だ。
証拠として腕を預けるから、持ち帰って存分に己が武勇を誇るがいい。
でも、自慢した後は返してね。色々不便だし。
みたいな感じだと思っています。
胴体から切り離されても、未だに襟首を掴んで離さない鬼の腕を綱は持ち帰りました。
禍々しい腕をみた残りの四天王の面々は綱の武勇を褒め称えましたが
驕らず七日後に腕を取り返しにくる鬼への対策を考えます。
自分の屋敷に「ものいみ」の張り紙をし、腕は丈夫な箱にしまい込み、
お経を読みながら見張りました。
その後、約束通り七日目の夜に鬼がなんやかんやして綱を騙して腕を取り返し
屋根を突き破って 光る雲を突き抜け Fly Away! します。
綱は悔しがりましたが、羅生門の鬼の噂はなくなりました。
最後ばっさり省略しましたが、鬼が乳母に化けて屋敷に上がりこみ
綱の良心をくすぐって上手いこと自分の前に腕を差し出させております。
わかりやすくまとめたものです。
これは基になった謡曲の影響で本来は別の鬼だったようです。
謡曲の《羅生門》は平家物語の一条戻橋のエピソードを羅生門に変えて創作されており
その時に戦ったのが茨木童子だったから、羅生門の鬼も茨木童子となったそうな。
鬼が娘に化けたり老女に化けたりしていて、それにいちいち騙される綱が可愛くて好きです。
参考図書